しばらくすると辺りが静まったので、兄やんの興奮状態も治まり、さっきの立体駐車場へと戻った。そして、なだれ込むように、駐車場のベンチで眠りについた。しかし、やはり途中寒さで目が覚め、駐車場を出ることにした。
辺りはまだ暗く、まだまだ時間つぶしをする必要があった。少し歩いたところにコンビニがあったので、そこで朝飯を買い、近くの駐車場に座ってパンとおにぎりを食べていた。気がつくと、かすかに明るくなり始めていた。
ちょっと景色のいいところで日の出を見ようと、平和公園につながっている川まで急ぎ足で歩いた。そして、しばらく日の出の景色に見とれていた。嵐のような夜の後だっただけに、兄やんにとってこの光景は癒しをもたらしてくれた。
すっかり辺りが明るくなった頃、気が付くと広島駅の方に向かって歩いていた。駅に着くと、もう中に入れる状態で、思いつきでとりあえず宮島行きのきっぷを買って、電車に乗った。
しかし、ここまでほとんどちゃんと寝てなかったために、席についた途端に眠りに着いてしまった。座った瞬間に眠りについてしまうのは、ホテルで働いていた頃に身についた習慣なのかもしれない。気がつくと、結構な時間が経っていて、山口と広島の間を行ったりきたりしていたようだった。
そして、一旦降りてもう一度電車に乗ると、また眠りについてしまっていた。次に目が覚めた時は、昼前くらいになっていて、降りて駅の名前を見ると、広島から大阪に戻ろうとした際に足止めを食らった「白市駅」だった。兄やんは、そこで運命的なものを感じ、白市駅で降りることにした。
前に来た時は暗かったので気づかなかったが、駅には、「広島空港」と書かれた看板があった。それを見ていて「ピン!」ときた兄やんは、バスに飛び乗り、スグに広島空港を目指していた。逃亡生活にも疲れていたので、バスの中のほんの10分ほどの間でもうとうとしてしまっていた。
空港に着き、空港内に入り、チケットの窓口までたどり着いた。しかし、金銭的な問題があった。高校時代に修学旅行で沖縄に行った時に飛行機に乗ったことはあったが、個人で飛行機に乗ったことはなかったので、飛行機の料金がいくらするか分からなかった。
しばらくどうしようか悩んだものの、空港内にある資料などを読み、現在のもち金で足りることが分かった兄やんは、チケットを購入した。はじめてのおつかいのように、若干緊張していたせいか、焦ってしまい、書く必要のない本名と住所まで書いてしまった。
※ 結局このせいで居所がバレ、つかまることになる。
とりあえずチケットを手に入れ、もう捕まることはないと安心した兄やんは、勝ち誇った気分になり、こころが大きくなってしまった。
「もういくら捜しても捕まらんぞ!」
そう思うと「ウサギとカメ」のウサギ状態になってしまい、昨日電話したテルにもう一度勝利宣言として電話することにした。
「もう探しても無駄だやから捜さんでいいぞ」
ということを伝えるために、公衆電話から電話をかけることにした。電話をかけたときはちょうど昼時で、学校では昼休みだったらしく、テルはすぐさま電話に出た。
(兄やん) 「おう、テルか」
(テル) 「あ、キム(兄やん)、何してんねんお前!」
その後、兄やんは余裕を持ちながらテルと話をしていたが、兄やんが電話を切ろうとすると、
「お前、今広島におるやろ!」
いる場所を言い当てられてしまった。まさか今いる場所を言い当てるとは思っていなかった兄やんは、一瞬うろたえ、ごまかし切れずに、焦ってそのまま電話を切ってしまった。しかし、その時の兄やんは、
「まさかこれくらいの手がかりで見つからないだろう」
と楽天的に考えていた。兄やんがカープファンだったのは、高校時代の友達ならほとんどの人が知っていたこともあって、兄やんが行きそうな場所に広島、というのが考えられたのだろう。そんな中、空港内からの電話だったため、知らないうちにアナウンスで「広島」と連呼していたかもしれない。
一抹の不安を残しながらも、空港を出て白市駅へと戻った。駅に戻り、しばらく歩くと、酒屋とコンビニ、ドラッグストアがあった。そこらへんでいろいろと買い物を済ませ、駅に戻ると、ポツ、ポツと雨が降り始めてきた。